まず、運動器バイオマテリアルという聴き慣れない言葉のご説明をいたしましょう。
運動器
運動器とは、筋肉、腱、靭帯、骨関節、神経などの身体運動にたずさわる器官をさします。これは整形外科であつかうものと同じものです。
バイオマテリアル
バイオマテリアル(biomaterial)とは、医療分野においてヒトの生体に移植することを目的とした材料のことをいいます。具体的には人工心臓、眼内レンズなどの人工材料から、最近注目されている再生医療技術(自分の体の組織の一部を体外で増やし、それを体内に移植する技術)で創られた皮膚、心筋、角膜まで様々なものがあり、すでに多くの場所で用いられています。
それでは、運動器バイオマテリアルとはどのようなものをいうのでしょうか。
それは、整形外科領域で用いられる材料のことであり、具体的には人工関節、人工骨、再生軟骨などをさします。

人工関節
人工関節という名前はお聞きになられた方も多いと思いますが、すでに30年以上の長い歴史があり、現在では毎年10万人程度の患者様が手術を受けておられます。下記に各部位に使用されている人工関節をご紹介します。
(クリックすると拡大イメージをご覧いただけます。)
![]() 人工股関節 | ![]() 人工膝関節 |
![]() 人工足関節 |
![]() 人工肩関節 |
![]() 人工股肘節 |

しかし残念ながら永遠にはもたないこと(下の「人工膝関節の生存率」の表をご参照いただくと、人工膝関節術後10年で約5〜15%の方に再手術が必要となっています)や、股関節、膝関節では正座をするまで曲げることができないなど、現在でも解決されていない問題が数多く残されています。

■人工膝関節術後の問題点


左は人工膝関節を擬似骨に入れた写真です。人工関節は大腿骨に設置する金属部分、脛骨側に設置する金属部分、その間にクッションとなるポリエチレン部分の3パーツより構成されています。 しかし、長期にわたる膝の屈伸に伴い、残念ながらポリエチレンが磨耗するという現象がおきてしまいます。
右は術後10年以上経過した患者様の人工関節ですが、ポリエチレンが磨り減って金属が露出しているのがお分かりいただけるでしょう。
このような磨耗がなぜおきるのか、どうすれば解決できるのかは現在も詳しいことはわかっていません。これを解決するための研究を私達の教室では行ってきました。
